転職ノウハウ

拡大するカーシェアリング市場 話題のアプリ「Anyca」事業責任者が語るクルマ業界の未来


「若者のクルマ離れ」と言われて久しいなか、注目を集めているのがカーシェアリングビジネスです。クルマを“所有”したり“レンタル”したりするだけではなく、必要なときに“シェア”するスタイルに時代は移り変わっています。カーシェアビジネスに大企業が続々と参入するなか、個人間カーシェアリングアプリ「Anyca」は異彩を放つ存在です。2015年9月にサービスを開始し、会員数は現在15万人以上。急成長を遂げる「Anyca」の事業責任者である、DeNAオートモーティブ事業本部・馬場光さんにお話をうかがいました。

“個人間”カーシェアリングアプリ開発の背景とは

――「Anyca」開発のきっかけを教えてください。
構想を練りはじめたのが2014年頃です。ちょうど、アメリカの民泊仲介サイト「Airbnb」の日本法人が設立されるなど、遊休資産を活用するシェアリングエコノミーが注目され、海外では個人間カーシェアも徐々に立ち上がりはじめていました。

また僕自身が入社2年目であまり深く考えずにジープの「Cherokee」を買ってしまったんです。都内では駐車場代に3万円くらいかかりますし、車検や税金など維持費の高さに驚き「ちょっとマズイな」と頭を悩ませていました。そんな事情もあり、個人間カーシェアを日本に導入したらどうなるだろうと考えたんです。会社としても新しい領域で勝負しようとしていた時期と重なり、企画が進んでいきました。

――ご自身の体験がアプリ開発に繋がったのですね。でも、大切なクルマを他人とシェアすることに抵抗はありませんでしたか?
クルマを買っても実際に乗るのは月1回~2回くらいで、友達に貸したりしていました。そうすると、そのお礼にご飯をおごってくれたりして嬉しいんですよね。その延長上に個人間カーシェアリングがあると僕は考えていて、お互いの信頼関係を築けるプラットフォームを作ることができれば、クルマを所有するオーナーと利用するドライバーでWin-Winの関係になれると感じました。

―実際にはどのような手順で利用できるのでしょうか。
サイトに登録車とシェア料金(24時間)が掲載されているので、気に入ったクルマを選びオーナーに予約リクエストを送ります。お互いのプロフィールやレビューを見て、予約の可否を決めて、リクエストが承認されると正式に予約確定となります。オーナーとドライバーで待ち合わせ場所を決め、対面で受渡しします。そのときに免許証による本人確認、クルマのキズ確認などを双方で行い、利用後にまた約束の場所に返却するという流れです。

車種の豊富さと利用料の安さが、個人間カーシェアのメリット

――個人間カーシェアリングの特徴を教えていただけますか。
大きな違いは車種の豊富さです。2018年7月時点で登録車が6000台以上あり、700以上の車種が揃っています。軽自動車、SUVだけでなく、高級外車など一般的なレンタカーやカーシェアでは扱っていないようなクルマも選べます。

例えばテスラ「モデルS」は象徴的ですね。未来のクルマとも称される電気自動車で1000万円は下らないモデルですから、法人では採算が合わずに借りられるところはほとんどありません。ところが「Anyca」では、15台ほど登録され人気を集めています。

もうひとつは安さです。車種にもよりますが、Anycaのオーナーは「維持費の足しにしたい」という気持ちで価格設定をしていますから、お手頃な価格になる傾向があるようです。

――憧れのクルマに乗れて、しかも安いのは大きなメリットですね。
利用者アンケートを見ても、86.5%のドライバーが「乗りたい車種のクルマがあること」、76.1%が「安いこと」を利用理由として上げています。意外なところでは「クルマ購入前の試乗」として利用する方も44.1%いました。自分で運転できるだけでなく、オーナーの生の声を聞ける点も個人間カーシェアならではの特徴です。

――オーナーはどんな理由でクルマを登録しているのでしょうか。
一番の理由は「収入が得られる」ことです。自家用車の稼働率は高くありません。駐車場に眠っているクルマをシェアすることで、オーナーは月平均2万5000円(※)の金額を受け取っています。
僕自身も第1号の利用者としてジープの「Cherokee」を登録し、毎月3万~4万くらいの収入になりました。駐車場代に充てられて非常に助かりましたね。

※東京23区内にクルマの受渡し場所を設定し、1回以上シェア経験がある場合の平均受取金額(2016年2月の1ヵ月における実績値)

クルマを愛する“人との繋がり”が、魅力になる

――個人間カーシェアリングの魅力のひとつに「人との繋がり」があると聞きました。
そうですね。人の繋がりは想像以上に大きかったですね。ドライブ旅行のお土産をもってオーナーに返却するのが、ひとつの文化になっていたり、同じクルマを愛する者同士としてわかり合える点が多いのです。なかには、カーシェアの出会いをきっかけに転職した人もいるほどです。

――なぜ、それほど仲が深まるのでしょうか。
同じオーナーのクルマを何度もシェアするリピーターが多いのです。はじめは最寄り駅で待ち合わせてクルマの受渡しを行っていたのが、次第にオーナーが自宅までクルマを届けてくれるようになったり。関係次第ですが、受渡し場所や時間について多少の融通が利くこともあるようです。

繋がりという意味で、“子育てカーシェア”キャンペーンを立ち上げたこともあります。レンタカーだと、チャイルドシートを毎回設置しなくてはいけませんが、同年代のお子さんがいる家庭のクルマをシェアすると子どもに必要なものがセットされているため「かゆいところに手が届く」と好評でした。キャンペーンは終わりましたが、生まれたコミュニティーは続いています。

――その他に、印象に残っている利用のされかたはありますか?
旅行時の利用です。僕も沖縄旅行のときに、思い切ってオープンカーを利用させていただきました。ご飯の美味しい店を教えてもらえるし、地元の方とのふれ合いも楽しみのひとつです。数が多いのは圧倒的に関東ですが、全国47都道府県で登録車はあります。他にも結婚式の入場や写真撮影に、オープンカーやクラシックなビートルをシェアされる方もいます。

――気になるのが事故などのトラブルです。
クルマを運転していれば、事故が起こることもあります。「Anyca」では東京海上日動の1日自動車保険(車両補償ありプラン)に自動加入するシステムをとっています。その他にも、カーシェア前後に双方で行う“キズ確認機能”の導入や、公認修理工場との連携などを行うことでトラブルに対応しています。

自動運転社会に向け「Anyca」が目指す、理想的な未来のカタチ

――DeNAでは、自動運転社会に向けた取り組みも盛んですね。
無人運転車両を活用した新しい交通サービス「Easy Ride」や自動運転バス「ロボットシャトル」などの取り組みをDeNAは行っています。自動運転社会に向かっていくのは、時代の大きな流れです。

――時代の流れのなかで、「Anyca」として今後の展開をどうお考えでしょうか。
目指しているのは、マイカーを仮想的に複数台もてる社会です。クルマ好きの僕でも近くに買い物に行くなら軽自動車で十分なんですよね。遠出するならSUV、仲間で出かけるならミニバンと、TPOに合わせてクルマを選べるのが理想です。その選択肢のひとつに移動に特化した自動運転車両が入ってくれば、とても便利な社会になります。「Anyca」はそのプラットフォームでありたいですし、そのためのシステム作りをしていきたいです。

――クルマ好きというご自身の趣味をいかした理想的な働き方だと思いますが、転職を考えている読者にアドバイスをお願いします。
好きなことへ向かうパワーは本当にすごいんですよね。僕は元々プログラマーなのでコードを書くこともありますが、実現が難しいと感じると「この方が効率的だな」と別の道を探すこともあります。ところが自分の好きな分野だと「絶対にこの方がおもしろいし便利だ」と、なかなか諦めません。そのおかげでスキルも上がりますし、たとえ時間がかかったとしても自分の興味のある分野にアタックすることが、結果としては幸せだと思っています。

プロフィール
馬場 光(ばば ひかる)
DeNA オートモーティブ事業本部 カーシェアリンググループ Anyca 事業責任者。2012年4月にDeNAに新卒入社。モバイルゲームの開発・運用を行い、リードエンジニアやプロジェクトマネージャーを経験。2015年1月から、エンジニアとしてAnycaの立ち上げに携わり、リリース後はシステム責任者として新機能の開発・運用を行う。2017年9月より事業責任者を担う。
取材協力:株式会社ディー・エヌ・エー
乗ってみたいに出会えるカーシェアアプリ「Anyca」( https://anyca.net/)
一般のオーナーが所有するクルマに乗れる、新しいカーシェアリングサービス

(取材・文:梶野佐智子)