転職者インタビュー

出戻りを選択したShiftall・岩佐琢磨氏が、古巣にもたらす化学反応

Shiftall(シフトール)代表取締役CEOの岩佐琢磨さんは、異色の“出戻り”キャリアを選んだ人物。2007年に松下電器産業(現パナソニック)を退職した翌年に、家電スタートアップCerevo(セレボ)を設立。グローバル戦略を掲げ、モノとインターネットを繋げるIoT技術を活用したユニークなプロダクトを生み出し成功を収めてきました。
ところが2018年4月、同社の一部を分割した新会社Shiftallを立ち上げ代表に就任すると、全株式をパナソニックに売却。完全子会社となるかたちで、古巣へのカムバックを果たしたのです。

新しいチャレンジに必要なピースを僕らが持っていた

――11年ぶりの古巣復帰が話題になっていますが、その経緯を教えてください
「おもしろい提案があったので乗りました」というのがシンプルな答えです。同じことを繰り返していると、どうしても刺激がなくなりますし、新しいことにチャレンジしたいと思っていたところにお話をいただきました。

――今回の買収による復帰劇は、どちらの提案だったのでしょうか?
そもそもはCerevoの資金調達の相談で、僕たちから訪ねたんです。そこで専務(執行役員)から「一緒にやらないか」という話をいただきました。求められたのはアジャイル開発(素早く製品開発を行い、顧客の意見をもとに改良を加えながら品質を高める手法)の支援でした。

僕が社員だった頃は、確実に売れる商品にフォーカスを絞って大量生産する時代でした。実際に作ればそれだけ売れましたから、業績もよかった。けれどもゼロからイチを作ることが好きな僕のような人間にとっては、新しいモノづくりができなくて辛かったんですよね。その結果、大企業では作れないニッチなプロダクトを作るために退職し、起業をしたわけです。

ご存じの通り、当時と今とでは日本の家電メーカーを取り巻く状況はガラリと変化しました。どの大手家電メーカーも当時と比べれば経営状況も芳しくなく、危機的な状況にあります。今までのやり方を続けていてはマズイというのは共通認識です。

退職したあとも僕は前出の専務と連絡を取り合っていましたし、冗談半分に手伝えることはあるよとは以前から言ってましたが、今回の交渉の中で「本気だぞ」というのが伝わってきました。

会社の売却資金はCerevoを成長させるための資金に充てられますし、日本の大手家電メーカーの「新たなチャンレンジをしたい」というマインドにも合致しました。さらに上層部が本気で変わろうとしていることも僕たちにしっかりと伝わったこともあって、今回の話に乗ることにしたんです。

――躊躇はありませんでしたか
そうですね。もし退職した翌年にお話をいただいていたら答えはNOだったかもしれません。11年という歳月があって、お世話になった方々が出世して、今では役員名簿によく知っている名前が並ぶようになった。大企業はトップダウンが難しいとよく言われますが、僕自身はそんなこともないかなと思うんです。

上が本気で会社を変えようと思えば変えられるし、現役員たちとしっかりコミュニケーションが取れる立ち位置にいるのも大きかった。さらに言えば彼らのチャレンジに必要なピースを僕たちのチームが持っていることはわかっていましたから。

“出戻り”だからこそできるスピード重視の開発

――一外に出たことで見えることはありましたか
山のようにありましたよ。社員だったときは気づけなかったことも、冷静な目でとらえられるようになりましたし。大企業のほとんどがそうだと思いますが、“石橋を叩いて渡る”文化が悪い意味で根づき、叩きすぎて橋を叩き割ってしまったり、制限時間がきてゲームオーバーになってしまったりというケースが非常に多いんです。

実際に僕も「もっと検討しろ」とか「実現の可能性は?」なんていう言葉をよくかけられていました。だからこそ、Cerevo では“その逆”をやってきたつもりです。

――その経験が、ニッチな製品をスピード感をもって作るスタイルに繋がったのですね
大企業では時間をかけて、90%まで精度を高めて1000億円を突っ込むような開発が求められていたのだと思います。GOが出たら、莫大な資金を使える点は大企業の強み。
けれど時代は変わりました。3秒前に起こった出来事を瞬時に共有できる高機能端末を、今や誰もが持っています。

当然ながら世の中は加速していて、企画にも開発にもスピード感が求められている。誰よりも早く70%まで精度を高めて1億円をクイックに突っ込めるチームが前者より強いかもしれないし、50%の精度のものを同時に3本走らせる方法が有効なのかもしれない。僕らチームがやってきた、そうしたノウハウが必要とされているのだと思います。

――古巣に戻り、現在のところ具体的にはどのような開発に関わっているのでしょうか?
戻って感じたのは、「変化が必要だということは意識しているけれど、どのように変わったらよいのか悩んでいる状態なのかな」ということ。現在はIoTを活用した住空間環境プロジェクト「HomeX」の開発を中心に入り込みながら、IoT製品のアジャイル開発を行っています。

実際にはいろいろな“相談”が上がってくるので、「こういうやり方があるんじゃない?」と道筋を立てます。だいたいの場合「そんなやり方で大丈夫ですか?」と言われるので、「大丈夫、大丈夫。50%でいいから1回作ってみよう」と提案し、開発の部分はShiftallで引き取ることも。

おもしろいのは、最初は不安に思っている人たちも、完成したモノを見ると「意外とよくできているね」と言うんです。もっと改良したいという案がでてきたら、それは90%まで高める作業なのでお任せしますよと。初代の量産品を作る手伝いが多くなりそうです。

一方では「人材教育」という面でも貢献ができているのかなという気がしています。
パナソニック社員にもShiftallチームに入ってもらい、一緒にモノ作りをしているのですが、僕らのやり方をそばで見ているうちに仕事に対するスピード感が変わっていくんです。

次第に「まわりは何を悠長にやっているんだろう」という感覚が生まれ、ウイルスのように全体に伝染していきます。時代のスピードに合ったマインドを持つ人材が増えれば、十分に世界と戦っていけると僕は思っています。問題は社員のマインドが変わるまでの間、会社の体力が継続できるかですが、ここはまだ“猶予”があると思っています。

――“猶予”というのは強烈なキーワードですね
おっしゃる通りですが、それくらいの危機感はあってしかるべきです。逆に「案外いけるかもよ」という手ごたえも感じています。先ほども話したように、情報の拡散力は高まっています。重い歯車も、動きだしてしまえば意外とまわっていくんじゃないかとも思うのです。

岩佐氏が求める、時代に合った人材とは

――そもそもの話になりますが、大手企業を辞めるのは大きな決断ではありませんでしたか?
「大手を辞める」って本当にすごいことですか? と自身では思っています。意外と皆さんカジュアルに辞めていきますよ。ひとつの会社で同じことをやり続けるのもひとつのスキルだと思いますが、大手企業での終身雇用みたいな信仰はほとんどなくて、あっさり離れていく人は多いです。特に東京は人材流動性がすごく高まっていますし。この傾向を僕は非常にポジティブにとらえています。大手企業に就職したら一生安泰という時代ではありませんし、グローバルスタンダードからも外れていますから。

――今の時代を岩佐さんはどう見ているか教えてください
これからの時代は“会社”ではなく、“人”に仕事を依頼する時代だと感じています。「この案件なら〇〇さんにお願いしよう」というケースが増えていて、そこから「あの人は今、どこの会社にいるんだっけ?」と考える。会社よりも個人が前にくるんです。その時に「あの会社にいるなら依頼するのをやめよう」とはならないですよね。

スキルを身につけることをボディメイクで表現するなら、ひと昔前までは会社に所属することは、パワードスーツを着せてもらえるようなイメージでした。今はその効力がすごく弱まっています。しかも大企業に勤めている人ほどスーツを脱いだら中身は案外ヒョロヒョロだったり、筋肉がついていても極端にイビツだったりするんですよね。それでは仕事を任せられません。

――では、どのような人材が求められているのでしょうか?
どんな働き方をするにしても、個人の筋肉(スキル)をつけることが大事です。それもバランスのよい筋肉というか、総合力の高さが求められていると思います。

例えば、今の会社では上腕二頭筋しか鍛えられないから腹筋をつけるために転職するという考えはすごくいいと思います。スタートアップ企業は、短期間での急成長が課せられますし、営業や経理から人事・広報まで、ひとりで担当する業務の幅が広く、バランスよく筋肉をつけられるので転職の選択肢としておすすめです。

その上で、仕事を“頼める”また“頼まれる”ネットワークを持っていることが大事だと思います。例えば、会社を辞めても上司や同僚とのコミュニケーションを続けるのも一案。僕もそうした関係があったからこそ、今回のリジョインに繋がりました。

そうしたネットワークを持っている人は総じて相手との関係性を理解する力と、文字ベースでの説明能力が高いと感じています。SNSでのちょっとしたメッセージのやり取りで、ゆるく繋がるのもひとつの方法です。

けっして「今この瞬間に、100の人脈を持っている人材が必要」という意味ではなく、人との繋がりを大切にするマインドを維持しながら筋力トレーニングを続けられること。僕自身もそういう人材と仕事をしたいと思っています。若いうちは数人の繋がりでも、仕事を続けるうちに自然と増えていくでしょうから。

■プロフィール
岩佐琢磨(いわさ たくま)
1978年生まれ。2003年松下電器産業(現パナソニック)就職。2007年退職。 翌年5月にCerevo(セレボ)設立。世界初のネットライブ配信機能付きデジタルカメラ『CEREVO CAM live!』、PCレスのライブ配信機器『LiveShell』シリーズなどを開発・製造し、世界70カ国以上で販売。2018年4月に新会社Shiftallを立ち上げ代表取締役CEOに就任。2018年4月に新会社Shiftallを立ち上げ代表取締役CEOに就任。

(取材・文 梶野佐智子)