転職ノウハウ

デジタル世代が起こす製造業イノベーション。3Dプリンタに見るモノづくりの現場

金型がなくても立体物を作ることができる3Dプリンタの登場は、モノづくり業界に大きなインパクトを与えました。多様な造形を少量でも低コストで生み出せるため、製品開発の試作に多く活用されています。その一方で、製造業を変えるほどの革新に至らなかったという印象も……。ところが今、その現状が変わりつつあるようです。3Dプリンタの急速な進化より、ついにモノづくり革命が起ころうとしています。黎明期から3Dプリンタサービスを運営してきた「DMM.make」の3Dプリント部門部長・川岸孝輔さん(写真右)と、モノづくりの拠点「DMM.make AKIBA」のテックスタッフ・渡邉 仁史さん(写真左)に話を伺いました。

造形スピードは50倍、使用できる素材も爆発的に増えた

――3Dプリンタが日本で注目されはじめたのはいつ頃でしょうか

3Dプリンタをはじめとする“メイカーズムーブメント”が走りはじめたのが2011年頃、DMMが3Dプリントサービスを開始したのが2013年です。日本でも3Dプリンタの認知度が上がり、流行の兆しを見せた頃だと思います。当時は個人ユーザーがフィギュアを作ったり、ビジネス的にはモノづくりの“試作”として利用されたりするのが一般的でした。

――「製造業を変える」と注目を集めましたが、現場で積極的に採用されるには至らなかったように思いますが、なぜだったのでしょう?

理由はふたつあります。スピードと強度です。当時の3Dプリンタは、樹脂を熱で溶かし積み重ねて造形するタイプや、石膏の粉を糊でとめて固形化するタイプが主流でした。前者は造形に時間が掛かり、後者は強度が期待できませんでした。金属を積層する3Dプリンタなど強度のあるタイプもありましたが、非常に高額で利用できる分野は限定的でした。

現在は、多種多様の3Dプリンタが登場しています。例えば、パウダー状の素材を硬化させるタイプには、レーザーで焼き固めるものや、糊でとめたあとさらに熱を加えて焼き固めるものなどがあり、これらは非常に強度があります。また溶液状の樹脂をレーザーで固めるタイプでは、造形スピードや使える樹脂素材の豊富さで進化を遂げてきました。

当時と今とで比較すると、造形にかかるスピードは段違いです。機種によっては50倍速いというものも登場しています。使用できる素材も爆発的に増え、その用途は広がりました。

―そのような進化によって、モノづくりにどのような変化があるのでしょうか

試作の段階を抜けて、実際のプロダクション(生産)での利用が可能になります。お客さまから500パーツ、1000パーツという単位でオーダーをいただくことも増え、現実的にも試作から量産品の段階へ進んでいます。

造形スピードの進化は大きく、仮に1ヵ月・フル稼働させた場合でも1日24時間×30日で720時間しか動かせません。金型を使った射出成形なら100万個作れても、3Dプリンタでは1万個しか作れないという状況が今まではありました。
製造業では、スピード=コストです。ニーズよりも生産キャパシティが大きければ、受注が増えるほどコストを抑えられる仕組みが作れます。モノにもよりますが月に100万個作れると、ほぼ原材料レベルまでコストを落とせます。逆にいうと、3Dプリンタでは生産キャパシティがボトルネックになっていました。
それが今、3Dプリンタの生産キャパシティがニーズを上回る状況になりつつあります。

DMM,makeで導入している最新3Dプリンタ「HP Jet Fusion 3D 4200プリンティングソリューション」は、アダプタやコネクターなど50%以上の樹脂パーツが同機種の3Dプリンタで作られています。自分で分身を作る、とても面白い現象です。

また事実、アディティブ・マニュファクチャリング(3Dプリント)の部署がある企業が増えています。これは最終製品への応用を見越した流れだと感じています。

試作から量産へと移り、さまざまな業界でモノづくりのあり方を変える

――先日、パリ・コレクションを視察に行かれたと聞きました

今回パリに行ったのは、コレクションで利用でき、かつ製品に応用できるものを生み出そうというプロジェクトのためです。パリ・コレクションなどのファッションショーで、以前から3Dプリンタは利用されてきました。ショーのためのワンオフ品として、装飾のためのパーツを造形したり、パーツ同士を接続してドレスのように仕立てたりなどです。
僕たちは、ファッションの分野でも3Dプリンタをプロダクションに利用できる段階にきていると考えています。「ミキオサカベ」のデザイナー・坂部三樹郎さんに陣頭指揮を執っていただき、「GIDDY UP」というブランドを立ち上げ、靴のソールを3Dプリンタで造形し展開する予定です。

――その他の分野ではどうでしょうか

航空・宇宙系の分野では、3Dプリンタで作った金属パーツが使用されているのは有名です。最近、HP社のプリンタが国際宇宙ステーション(ISS)で採用されたのですが、これにHPの3Dプリンタ「HP Jet Fusion 3D 4200プリンティングソリューション」で造形された樹脂パーツが利用されています。無重力環境で紙を送る機構が既存の方法では作れなかったところ、3Dプリンタでは可能になったそうです。
また医療の分野では、歯科用のブリッジやインプラントでの採用実績が海外ではあります。

――日本は世界と比べて、3Dプリンタの利用は進んでいるのでしょうか。

遅れていると思います。特に先進国のなかで日本は「断トツで遅れている」と言ってもよいほどです。
例えばドイツは国家戦略として提唱する“インダストリー4.0”で、オートメーション化を進めるプロセスのなかに3Dプリンタを積極的に組み込んでいます。
またアメリカでは、バラク・オバマ大統領の時代から国策として3Dプリンタの活用に取り組み、若い世代が積極的に利用できるような環境を整えてきました。

――そのような日本の現状を、どのように感じていますか?

日本では製造業に関わる人が減っています。その中で、3Dプリンタをどう活用したらよいかを常に模索しています。意識しているのは、装置ではなく設計データが大切になるだろうという点です。
同じようなモノを日本でも中国でも作れるとき、労働力、賃金、輸送費、関税などのコストに差がでてきます。けれど3Dプリンタがより進化すれば、日本で作っても中国で作っても差がなくなる可能性があります。
例えば日本で設計した3Dデータを、日本国内や世界各国の製造基地に送信して3Dプリンタで量産すれば、労働力、賃金、輸送量、関税などのコストが掛からず、まるで地産地消のような新しい生産方式が可能になります。つまり、コストが安く上がる地域を選んで生産工場を設ける必要がなくなるのです。そうなると、中国のような一大消費国かつ生産国が、現状と同様に国外分の生産まで続けるような形にはならないのかなと考えています。
これにより世界がどう変わるかは未知数ですが、僕らは将来このようなことが起こり得るだろうと考え、プランニングとサービス設計を行っています。

――日本にとって非常にメリットのある話のように思います

そうですね。日本のエンジニアやディベロッパーなど開発能力のある人は、データさえ作れば本当に短いプロセスで海外の消費者の手元に製品を届けることが可能になります。海外メーカーの製品も、日本の拠点で製造してお客さまの手元に届けることができます。このような変化は、日本の製造業にとってもユーザーにとってもメリットになる可能性はあると思います。

――川岸さんは3Dプリンタをどのように活用して欲しいと思われますか?

若い人に積極的に使ってほしいです。製造業に長く携わっている人ほど、既存のルーティンが当たり前になりすぎてブレイクスルーを起こせないこともあります。
生まれたときから、スマートフォンやiPadがあり、デジタルが身体に染みついている世代が当たり前のように3Dプリンタを利用し、その経験を経てビジネスで3Dプリンタを活用するようになれば、日本のモノづくりのあり方が変わると期待しています。

3Dプリンタも使用できる、モノづくりの拠点“DMM.make AKIBA”

まだ3Dプリンタにふれたことがない、という人におすすめなのが“DMM.make AKIBA”だ。

――DMM.make AKIBAとはどのような施設なのでしょうか

総合型のモノづくり施設です。シェアオフィスやイベントスペースを有するビジネス拠点“Base”と、開発に必要なホンモノの機材が揃う開発拠点“Studio”で構成され、企業だけでなく、モノづくりが好きな個人のお客さまにもご利用いただけます。
“Studio”には3Dプリンタ、3Dスキャナーなどのデジタルファブリケーションのほか、はんだごてやオシロスコープを備えた回路設計のルーム、電気・静電気・熱など測定、安全規格などのプレテストや環境試験を行えるルームもあります。

――初心者にはハードルが高そうにも思えます

ビジネスにご利用いただける本格的な施設ですが、導入している3DプリンタはAFINIAのH480という、10万円ほどで購入できる手頃なモデルです。操作が比較的簡単で、ある程度の精度を出せるものを選んでいます。個人のお客さまにも使いやすいと思いますし、スタッフがついてひと通りの操作方法をご説明します。“Studio”のなかでも、3Dプリンタは一番人気の機材です。

――個人の利用者は、どのように3Dプリンタを活用しているのでしょうか

さまざまですね。例えば、お菓子の「きのこの山」を3Dスキャンし、その3Dデータを出力してオブジェのような作品を作って楽しまれる方もいました。基本的にデジタルデータは拡大、縮小は自由自在なので、実物より小さいものも大きなものも作れます。
なかには現代アートの文脈で、3Dプリンタを利用される作家さんもいらっしゃいます。また、自ら電子回路設計し、自律型ロボットを作る方も少なくありません。

――3Dプリンタを使ってみたいという人へのアドバイスをお願いします

3Dデータの作り方がわからないという方は、初心者向けの3Dプリント講座や、ワークショップなども開催していますので、参加してみるのもひとつの手です。Studioには、3Dプリンタに関するさまざまなアドバイスのできるテックスタッフが常駐していますので、安心してご利用ください。

プロフィール
川岸孝輔(かわぎし こうすけ)
DMM.make 3Dプリント部門部長。メーカーで製品企画から外装設計、電子回路設計、コーディングとマルチエンジニアとして勤務し、数々の商品を世に送り出した経歴をもつ。3Dプリントを利用した設計製造に新たな可能性を感じDMMに入社しシニアエンジニアを務めた後にサービスデザインの統括責任者となる。
プロフィール
渡邉仁史(わたなべ ひとし)
DMM.make AKIBA テックスタッフ。2012年頃より3Dプリンタをはじめとしたデジタルファブリケーションの活用に興味を持ち、さまざまなFab施設を巡りながら実践を重ねる。DMM.make AKIBAでは、メイカースペース支援コンサルや企業共催ものづくり系イベント(ハッカソン等)の企画立案・運営等をこなすテックスタッフとして従事。

(取材・文:梶野佐智子)