転職ノウハウ

14億負債の企業を再生させた“破天荒”社長が語る、働くうえで必要な「お金」以外の価値観とは!?

2008年当時、巨額の債務超過により「絶対に倒産する」と周囲に言われたメガネチェーン店OWNDAYS(オンデーズ)。決算書を見た誰もがリスクと捉える中で、田中氏は買収へと踏みきり30歳でOWNDAYSの代表取締役へと就任する。現在では約2000名の従業員を抱え、2019年1月現在で国内116店舗、海外12カ国153店舗までに事業を展開。そんな企業再興を成した田中修治社長の語る、自分らしく働く知恵とは?

そもそもリスクを取れるほど、俺たちは何も持っていない

———OWNDAYS買収に至るまでの経緯について教えてください。

29歳まで9年間ほど、社員10名ほどのウェブ制作会社の経営をしていました。当時はベンチャーが勢いのあった時代で、映像やデザインの案件をひたすらこなしていたのです。ただ、制作会社といっても結局は下請けです。お客さんのところを回って、依頼されたものを作って、納品しての繰り返し。成長していくイメージもあまり持てない中で、いつまでこの状態を続けたらいいのだろうという状況でした。
そんな折に債務超過のOWNDAYSの話をいただいたので、「はい! やります」って即答でしたね。

———迷いやためらいはなかったのですか?

いろいろな経営者のところにこの話は行ったみたいですけど、みんな決算書を見て引き受けなかったみたいですね。私は、それまでのB to B の受注生産からとにかく抜け出したかった。ぺこぺこ頭を下げて、納品してというのが、肌に合わなかったんです。

私自身、定期的な勤務スタイルでの就業は難しいと感じていましたし、たとえ銀行からの借金があったとしても、当時全国で50店舗のメガネチェーン店の経営に携われる方がいいという判断でした。下請けではなく、お客さんを相手に川上に立ちたいという思いもありましたしね。

———14億円の負債をリスクとは考えなかったのですか?

売り上げを単純に増やせばいいと思っただけです。そもそもOWNDAYSの話って、実はノーリスク・ハイリターン。みんな「リスクを取って再生させた」みたいな文脈が好きで騒がれますけど、リスクとはそもそも自分の持っているものがなくなるということなので。その時の自分には、貯金も財産もありませんでしたし、失うほどのものを何も持っていなかった。だから周りからはリスクと見られていましたが、自分自身ではリスクを取っている実感は何もありませんでしたね。

仮に、もし会社が倒産したとしても、50店舗の経営をした実績や取引先との人脈、チェーン店の経営知識が丸ごと手に入る。会社を倒産させたという「物語」だって手に入るかもしれない。そういう経験ができること自体に価値があると思っていました。

———リスクとリターンの中に、はじめからお金以外の計算が入っていたのですね。

みんなお金がなくなったら、すべてがなくなると思っているようですが、それは勘違い。時間や経験、人脈、信用など、なくなって困るものって実は水面下にあるものの方が多い。結果的にそういう信用や経験が、後から数字を生むということなのに、お金の損得ばかり考えているから「リスク」という話になるんです。お金がなくなったとしても、実は何もなくなりはしない。たとえ事業に失敗して、会社が倒産したとしても、別にこの世から消えるわけじゃないですし、自分の中には「何か」が残るんですから。

世の中は“君”には無関心。だからこそ、行動することは楽


———失敗しても失うものなんてはじめからないと?

そう! よく失敗したらどうしよう? とかウジウジ考えて行動しない人がいますが、それは他人の目を気にしすぎなだけ。世間って基本的に無関心なんですよ。他人のことなんて、忙しくて誰も見てない。私だって、これだけ取材やらTVに出ているのに、街中で声すらかけられないですからね。国内100店舗以上あるOWNDAYSだって知られていない。未だに「何の会社なんですか?」と言われるくらいですから(笑)。

そう考えたら「誰も君のことなんて見てないよ」という意味がわかりますよね。世間はいつだって無関心だし、誰も見ていないと思えば行動するのが楽になるでしょ。何も持っていないという意味では、喫茶店で倒産間近だったOWNDAYSの決算書を眺めていた頃と今の自分だって大して変わらないよ。

———確かに自分が思うほど周りは自分を見ていませんよね。そう考えると、気が楽になります。

最近、仕事で海外に行くことが多いんですが、所得は住む場所によって異なります。タイにいれば、タイの所得になるし、フィリピンにいれば、フィリピンの給料になる。逆にフィリピン人だって日本に来れば、日本の時給になる。それは当然の話ですよね。同じ仕事していたって場所が変われば賃金が変わる。発注単価が変わるのですから。

いろいろな国の労働環境を見ていると、人間は自分がいる場所、またその周囲の価値観に染まってしまうところがある。だからうまいサッカーチームに入れば自分もうまくなるといったところがあるわけです。自分の属している組織やコミュニティが、自分にはちょっと合わないなと思ったら、思いきって環境を変えたらいい。その時に友達から「あいつ変わったよな」と言われても気にしなくていいと思います。

自分の属性を知ることで、人は不幸を回避できる


———劣等感を持っている場合、行動が制限されたりはしませんか?

人が劣等感を感じるのって他人と比較した時なんですよね。例えば今でこそ、世間から見たら私は金持ちに映るかもしれませんが、自分の周りにはもっと金持ちの人しかいません。お金を持っているということに価値観を置くなら、私は不幸だということになる。それこそ、上には上がいますから。

よく格差社会って、さも問題かのように言う人達がいるけれど、世の中に「収入に差がある」のは当然のこと。所得格差というのは見たくないかもしれないけど、現実的にあるじゃないですか。見ないふりすることもできますが、それは嘘ですよね。

例えば年収1千万円あったとしても、横の人が年収1億円あったら劣等感を抱きますよね。このように「お金をもっていること」に価値観を求めていると、この不幸は永遠に続く。だから不幸になりたくないのなら、別のところに価値観を置くしかないんです。

———お金以外のところに価値を置くと何が変わるのでしょうか

社会に出ると、いろいろなところに序列がありますよね。よく上層意識を持っている人が、自分より下位の者に対して、「もっとこっちにおいでよ!」ってレベルを引き上げてやるような態度を取ることがあるけれど、そんなのはだいたい上位の人が気持ちよくなりたいがゆえのエゴだし、おごりなんですよ。そういう人達は優越感を感じたくて、自分より下の連中に手を差し伸べて気持ちよくなりたいだけ。ほっとけ!って思いますよね。

人には、その人の性分にあった場所というものがありますから。分相応という言葉は、ネガティブに捉われがちですが、別の角度から見れば、それもひとつの知恵なんです。だいたいポジティブ、ネガティブって二項対立で色分けすること自体がナンセンス。

10年前、下請けの営業ができなくてすごく苦痛だったように、仕事を条件以外の軸で選ぶとしたら、働く環境が自分の肌に合う場所かどうかってことがひとつの基準にはなります。大切なのは、その企業文化に自分がフィットするかどうかということ。そこが合っていなければ、能力やパフォーマンスがそもそも発揮できないし、最悪、自分で自分を追い込んで潰れてしまったりもしますからね。

———まずは自分の属性を知ることが大事だということですね。

そうです。ネット上でもリアルでもいい。つながれる仲間がいるだけでいいと思うんです。現代はオンラインサロンもあるから、地方に住んでいたとしても自分の属性と合う場所を探す手段はいくらでもある。そういう自分の価値観と共鳴できる居心地のいい関係が周囲にあるかどうかは、実は働くうえでもとても大事なことなんです。

上昇志向を持つことは悪いことじゃないけれど、お金や数字の世界で、どちらが「上」か「下」かって「見える価値観」の中だけで生きていると、人間はなかなか幸せにはなれない。だから違和感を抱えたまま何の行動も起こさずに文句を言うくらいなら「まずは行動しろ!」ってことです。君ひとりが行動したくらいじゃ世間なんて見向きもしないんだから。

プロフィール
田中 修治(タナカ シュウジ)
OWNDAYS株式会社 代表。10代の頃から起業家として、企業再生案件を中心に事業を拡大。2008年に巨額の債務超過に陥り破綻していたメガネの製造販売を手がける小売チェーンの株式会社オンデーズに対し、個人で52%の第三者割当増資引き受けて同社の筆頭株主となり、同時に代表取締役社長に就任。2013年には同社初となる海外進出を手がけてオンデーズシンガポール法人(OWNDAYS SINGAPORE PTE LTD.)を設立。翌年、オンデーズ台湾法人(恩戴適股份有限公司)を設立。2018年1月現在、アイウェアブランド「OWNDAYS」を12か国270店舗展開し、独自の経営手法により、事業拡大と成長を続け実業家として活躍している。


(著書) 破天荒フェニックス オンデーズ再生物語
執筆者: 田中修治 (たなか しゅうじ)
発売日: 2018年9月5日 (水)
版元: 幻冬舎 (価格1600円+税)
小さなデザイン会社を経営している田中修治は、ひとつの賭けに打って出る。それは、誰もが倒産すると言い切ったメガネチェーン「オンデーズ」の買収。企業とは、働くとは、仲間とは。実話をもとにした、傑作エンターテイメント小説。

(取材・文:丹野元気)