転職ノウハウ

稼ぐのはお金ではなく信頼。熱量をともなう共感で拡がるSNSの可能性

奥ノ谷圭祐

業界各社が不況にあえぐなか、好調を維持するアパレルメーカーを束ねる奥ノ谷圭祐氏。2006年に上場メーカーから現在の会社に転職して以来、自身のパーソナリティを前面に押し出した取り組みが耳目を集めている。2014年にはSNS上のみで受注するブランド「KEISUKE OKUNOYA」をローンチ。SNSでモノを売るのは難しいといわれるなか、わずか4年で4億円以上を売り上げるなど、その手腕が業界内外で話題に。ユニークな風貌から「短パン社長」の愛称でも知られる奥ノ谷氏が考える、セルフブランディング成功の極意とは?

自分を出すことが売り上げに直結

奥ノ谷圭祐

――現在の会社に転職されたいきさつと、自身のパーソナリティを前面に出すようになったきっかけを教えてください。
もともと勤めていた会社は上場もしていて仕事も順調でした。当時は父の会社を継ぐ気がなく、修行しているつもりもなかったんですが、約13年前に父から声がかかったのを機に今の会社に入りました。

新しいブランドを任されたんですが、これがうまくいかなかった。ブランドが無名なのに大手のやり方をそのまま踏襲するものだから、結果が出ないのも当然です。“おしゃれ”な展示会を企画しても、いっこうにお客さんが来てくれませんでした。

そんなとき、少ないながらもDMを見て展示会に来てくれていた人がいました。聞けば、何を買うか・どこで買うかではなく、僕に会いに来てくれたと。会社でもブランドでもなく、自分を売り出すことが収益につながるのでは?と思い始めた瞬間でした。

――自分が前に出ることにためらいはありませんでしたか?
まったくありませんでした。何よりまず、僕を目当てに来てくれたことが嬉しかったですし、DMやブログで自分を出すことでたくさんの人に会えると思ったからです。そうやって自分がどんな人かを発信しているうちに、徐々にお客さまは増え、売り上げも伸びていきました。

SNSで起きているのはすべて現実。自分という“商材”を売ろうとした時点で嘘がバレる

奥ノ谷圭祐

――戦略的な意思決定があるというより、流れに素直に身を任せた結果ということですね。
その通り。その後、オリジナルのメンズブランド「KEISUKE OKUNOYA」を立ち上げましたが、これもSNSがきっかけです。コーデを自撮りしてSNSにあげていたら、友人が「その短パン、欲しい」とコメントをつけてくれて。ちょうど先のブランドが軌道に乗り始めたこともあって、次は自分のブランドを立ち上げてみよう、という感じです。

SNS限定販売というのもはじめから想定していたわけではなくて、自分が作ったものを自分で着てSNSで紹介しただけ。試しに120着ほど作ってみたら、それが20時間ほどで完売しました。気がついたらブランドになっていたというわけです。

――そもそもビジネスをまったく意識していなかったということですか?
僕にとってSNSやブログは、あくまで交流のためのツールだったし、商品が売れるのはあとになってわかったこと。だから、そもそもセルフブランディングという発想自体がなかった。それは今も変わりませんよ。

集客や販促が氾濫したせいで、SNSはものを売るツールとしてはすでに陳腐化しているところがあります。僕のやっていることは、いわゆるセルフブランディングやインフルエンサーマーケティングなのかな。「短パン社長」という名前からして、周囲の目にもそう映るかもしれません。でも自分自身ではそう思っていないし、そういうつもりもない。自分という“商材”を売ろうとした時点で、お客さまには嘘だと見透かされてしまいますよ。

「好き」を通じてみんなを楽しませたいというのが原動力

奥ノ谷圭祐

――ではSNSは自分を売り出すツールには適していないということでしょうか?
SNS上で自分を売ろうとしてあれこれ計画しても、きっとその通りにはならないし、無理に確立しようとするといずれ支障が出てきて長続きしないでしょう。

例えば、僕はユナイテッド・アローズの服がずっと好きなんだけど、アローズを真似るのではなく、より建設的に「アローズにないものを補う」というのが自分のブランドの基本スタンス。自分のブランドでも本当に好きで着たいと思うものだけを売っているので、全部で30型ぐらいしかないの。

SNSを見てくれれば嘘じゃないことがわかると思うけど、朝コーヒーを飲んで、昼はカレー、夜はビールという生活を続けてもうかれこれ8年くらいになる。コーヒーやカレー、ビールも手がけているけど、好きなものしかやらないというのは服と同じです。

誰かに頼まれて広告塔になることはないし、コラボもやらない。以前、バウムクーヘンのCM出演依頼をいただいたことがあったけど、甘いものが苦手だから丁重にお断りしました。

僕はSNSを使ってはいるけど、そこにあるものはすべて現実の延長上にある。好きじゃないものを無理に好きだと主張しても、そのうち嘘だとバレてみんな離れていってしまうからね。服のブランドも、カレーもビールも、僕が好きなことを通じて、みんなに楽しんでもらいたいという気持ちが一番です。

――好きという気持ちがすべての原動力というわけですね。
「好き」を発信し続けていれば、いずれ必ず共鳴・共感できる人とつながれて、いつも自分らしくいられるような価値ある関係性を築くことができる。すると想像もしてなかったようなことが生まれる。

「短パン田植え部」のときは、一緒にお米を作りませんか?って呼びかけたら、全国から50人くらい長野に集まってくれたんですよ。田植え、稲刈り、脱穀して、おにぎりを食べるところまでやったけど、誰にも1円もお金を払ってない。交通費もね。

さらに、5月28日に長野の白馬五竜スキー場で開催する予定の「短パンフェス」は、思いもよらない規模になりそうです。フェスをやろうとSNSで呼びかけたら、出店希望者とパフォーマーが約50組くらい手をあげてくれて。はじめは「短パン田植え部」や「短パンビール部」で利用した友人の中村ゆかり社長の「ホテル五龍館」、その近くの「白馬タップルーム」を使って小さい規模で開催する予定だったんですが、人数も多くなったのと、白馬五竜スキー場から声がかかったこともあって、開催地を変更することに。みんなに楽しんでもらいたいという気持ちが原動力になっているから、こんな風に思ってもみなかった流れにつながる。

自分に忠実であれば、視界が変わる

奥ノ谷圭祐

――SNSを仕事に活かすにはどうしたらいいのでしょうか?
「何を投稿すればいいんですか」ってよく聞かれるけど、まずは更新を続けることが大切。そして本気で振り切れるほど好きなことを見つけて、夢中になることだと思います。

死ぬほど好きなことって、寝る間を惜しんでやりたいし、食べ物なら僕みたいに毎日食べるはずなんだよね。当然、SNSが手元にあれば人にもすすめたくなる。「人を楽しませたい」というと訝しがる人もいるけど、美味しいお店を紹介して友達の笑顔が見たい気持ちは誰にだってあるでしょ。僕はそれをSNS上でやっているだけなんです。

サービスでもモノでも、何かを人に買ってもらうためには、まずはあなたのことを知ってもらわなくちゃいけない。SNSは、素直な気持ちを臆すことなく表現して信頼を獲得するための格好のツールだと思います。

――自分のことを表現できれば、仕事との向き合い方も変わるでしょうか?
働くことに関しても、自分のすべてを存分に活かすこと、発揮させることを第一に考えればいいんじゃないかな。そうすれば、自分のなかで働くことの意味が変わるでしょ。もし今の仕事が嫌いだったとしても、仕事の見え方や取り組み方がおのずと変わってきますよね。

大切なのは、会社でも他人でもなく、自分に忠実であること。自分を信じて、自分が本当に好きだと思えることを外に向かって発信することができれば、周りからいろんな情報が自然に集まってくるものです。ほかの誰かとつながることで視界が広がり、昨日とは違った景色が見えるようになる。それがSNSの醍醐味だろうし、世間でいうセルフブランディングが本来目指すべきところなのかもしれません。

(取材・文:鈴木 一禾)

プロフィール
奥ノ谷 圭祐(オクノヤ ケイスケ)
株式会社ピーアイ代表取締役。上場企業の某アパレルメーカーで営業・企画・ブランド責任者を務めたのち、2006年にピーアイに入社し、2010年より現職。クリエイティブディレクターとして「フラムクリップ」などのアパレルブランドの立ち上げ・運営に関わるほか、媒体を問わずコンサルティング業務にも携わる。2014年には、SNS上のみで受注するオリジナルブランド「KEISUKE OKUNOYA」をローンチ。4年で4億円以上の売上を達成し、業界初の関係性ブランドとして話題となる。ブログは9年間毎日欠かさず更新中。1年中、短パンを履いて過ごすことから付いたニックネームは「短パン社長」。