転職ノウハウ

「夢を語れるパパでありたい」時代の荒波にもまれたどり着いたのは‟DIY歓迎・原状復帰不要“の賃貸住宅経営

時代の波にもまれる中でたどり着いた夢。リノベーションで創る自分と次世代の未来

千葉県南房総で “DIY歓迎・原状復帰義務なし”賃貸住宅や診療所をリノベーションしたゲストハウスを運営し、官民連携の「リノベーションまちづくり」にも取り組んでいる漆原秀(うるしばらしげる)さん。IT黎明期に複数回起業するなど時代の最先端を走り続けた先に、「お金のための仕事」から「子どもに語れる夢をかなえる仕事」へとシフト。「人間もリノベーションしながら生きていけばいい」と語る漆原さんに、働くモチベーションやリノベーションの持つ可能性について聞きました。

リノベーションの本質とは?

――まず、現在の仕事について教えてください。
千葉県館山市に住んでいて、リノベーションした賃貸住宅の運営と、診療所をリノベーションしたゲストハウスを経営しています。リノベーションに関しては全体のプランニングと自分でも施工をしています。

――リノベーションとはなんでしょうか?
リノベーションは、英語のRe-Innovation(リ・イノベーション)のこと。もう一度革新するという意味を持っていて、元からあるものに新しい価値をプラスして用途を換えるものです。元の状態に戻したり、一部を改装したりするリフォームとはそこが違います。

――リノベーションの良さはなんだと思いますか?

漆原秀さんとトゥクトゥク

私はリノベーションを考えるとき、元の建物の過去や、持っている良さを探して活かすようにしています。そこに意外性やワクワク感を高める仕掛けを加え、そのためにブランディングも考える。

そうすると、建物が今まで培ってきたパワーが引き出されて深い共感を生むんです。これは新築には絶対にない良さですね。空き物件は一般にはマイナスイメージを抱きがちですが、リノベーションはマイナスを一気にプラスに引き上げる力があると思いますね。

あと、予算的なメリットはかなり大きいです。例えば、今手掛けているゲストハウスは新築ではじめるのに比べ、半分以下の予算となっています。

時代のエッジをつかみながらも翻弄された東京時代

――以前は東京でお仕事をされていたんですよね?
はい。大学在籍時に先輩とセールスプロモーションの会社を興しました。大学起業のハシリだったかもしれません。
それから数年後に、今でいうIT系の会社に就職しました。IT黎明期に当たる当時はかなりスピード感のある仕事ばかりで、20代でクリエイター養成スクールの新拠点立ち上げという大きな仕事を任されることもありましたね。9年間務めたのですが、34歳でWebコンサルタントの会社を起業して転職。収入面ではかなりアップしたのですが、段々とビジョンが揺らいできてしまい、そこに来たリーマンショックをきっかけに自己リストラということで、会社を離れました。

そして再び、IT系会社の会社員になったのですが、大手企業に出向してかなり大きなプロジェクトを進めることになり、かなりのプレッシャーがかかることに。結果キャパオーバーで精神的にまいってしまったんです。

――学生起業やIT系など、時代の最先端でお仕事をされていたんですね。
そうかもしれないですね。新しいものが好きだったので時代のエッジをつかむというか、トレンドの波には乗っていた気はします。その分翻弄されちゃいましたが……。(苦笑)

雇われない働き方を模索する中で自分の本質が目覚める

――その後はどうされたのですか?

漆原秀さん背後より撮影

「雇われない働き方」を再度考えるようになりましたね。ただ、子どもが生まれたばかりで収入が減ってしまうのは厳しかったので、仕事はなんとかこなしていました。そんなときに思いついたのが家賃収入を得るための不動産投資です。独学で勉強をして、2011年に2棟の中古マンションを購入しました。これで、雇われない働き方が実現できるのでは?と思い始めましたね。

その翌年に、ずっと空き室だったマンションの一室を改装して別荘みたいに使ってみようと思い立ちました。土日の休みはしっかりと取れる会社だったので、休みの日はその部屋のリノベーション三昧。大がかりな工事は大工さんに頼みましたが、プランニングは自分でして、家具などはDIYで作っていました。そうこうしているうちに、リノベーションの雑誌から、ブログ執筆の依頼が来たんです。やるなら人気ブロガーになってやろう!と思ってDIYしまくり、記事を書きまくって人気DIYブロガーと呼ばれるようになりました(笑)

ゲストハウス「tu.ne.Hostel」

その時期は、働くということに心が折れていて「お金のために生きるしかないのか」と諦めムードで仕事をしていたんですが、リノベーションやDIYをしていくことで、自分の中に眠っていた野性が目覚めるというか「自分が考えて作って喜ばれる」って嬉しい!という本質を思い出しました。

そして、人間もリノベーションしながら生きていけばいいんじゃないかと思ったんです。自分は50年近く生きてきて物件でいうと中古物件。でも、今まで蓄積されたリソース(自身に蓄えた能力的資産)があるわけです。そのリソースと新しいことを組み合わせればリノベーションできるんですよね。もう歳を取ったから、なんて諦めムードな同世代にも伝えたいなと思いました。

それから、子どもが大きくなって将来の夢を話すようになってきて、そのときに「パパの夢はなに?」と聞かれたら困るぞ、と思ったんですね。子どもが生まれるまでは、太く短く生きようと考えていたのですが、子どもが生まれてからは、経済的に家庭を維持することはもちろん、ずっとカッコイイパパでありたいと思い、長めのスパンに目が向きました。子どもに語れる夢を持って何十年も夢中になれることがしたい!と思い、大きな可能性を感じていたリノベーションや不動産投資を本業にと考えるようになりました。

クリエイティブなリノベーションで人とつながる

――東京から移住したのはどんなきっかけがあったんでしょうか?
とある書籍で、大家と住民との関係性が強い賃貸住宅の話を読んで、大家としてこんなコミュニティを作りたいと思ったのが大きなきっかけですね。そのコミュニティ作りの場に選んだのが、現在活動している千葉県館山市。もともと、自分の両親のために一軒家とアパートを購入していたんですが、ちょうどそのアパートの隣地に閉鎖された公務員宿舎があって将来的に民間放出があるだろうと聞いたんです。

賃貸住宅「ミナトバラックス」

競争入札で落札したのが2016年、リノベーションしてオープンさせたのが2017年です。地名と組み合わせて「ミナトバラックス」という名前をつけ、各部屋はDIY可能・原状復帰義務なしとして、クリエイティブな場になるよう考えました。また、長屋的なコミュニティもイメージしていたので一階に共有リビングを作りました。ハロウィンや餅つきなど季節の行事を一緒にしたり、月に数回程度、集まってご飯を食べたりする場に。ウチの子どもは一人っ子ですが、兄弟が増えたようになり楽しく暮らしています。住人の中でも自発的にどんどん交流が深まっていって、この場所で結婚披露宴をした住人もいるんです。こんな自発的で楽しいコミュニティを、街にも広げたいと思いました。

――市街へ活動の場を広げたんですね?
そうです。今、館山市の中心であるはずの館山駅周辺はいわゆるシャッター通り化しています。寂しい風景を横目に見ながら、子どもたちにこの地の未来を感じなさいといえませんよね。そこでこのエリアをにぎやかにしたい!と思い立ち、2019年6月にゲストハウス「tu.ne.Hostel(ツネホステル)」をオープンさせました。

ゲストハウス「tu.ne.Hostel」

物件は、元診療所。地域のサロン的な役割をはたしていた診療所の、コミュニティの歴史を引き継ぎながらワクワクする場に育てられればと思っています。オープンまでには地域内外の人が多く関わってくれていて、その理由はやはりリノベーションだからかなと思います。もともとの場の力があるので、巻き込み力が強いんですよね。

さらに、館山市では官民連携の「まちづくりリノベーション」という計画が動き始めていて、子どもたちに未来を感じてもらえるまちづくりの一歩を踏み出したところです。

――子どもたちにどんな未来を見てほしいですか?
今私がやっているようなチャレンジができる未来、ですかね。今の子ってチャレンジ精神が薄いとかいわれますが、これはその手本となる我々親世代がチャレンジをしていないからなんじゃないかと思うんです。私自身も若いころ先輩が無茶しながらもチャレンジする背中を見てきました。まずは自分がチャレンジする背中を見せて、チャレンジする若い人が出てくると嬉しいなと思いますね。それで子どもたちが大人になってから「あのころ、メガネかけたヘンなおじさんがいたよね」と思い出してもらえたら(笑)

東京とは違う、地方での自分の活かし方

――地方都市から見て東京はどんな風に感じますか?
東京って良くも悪くも異常だなと思います。ありとあらゆる人がいて、サービスや文化が異常にたくさんあって、異常に便利でなんでもある。その環境に巻き込まれてしまうと、自分を見失っちゃうんじゃないでしょうか。人が多い分、相互作用が強くて、仕事に対してやる気がなくてもその場しのぎでなんとか働いて生活できてしまう。思考が停止しがちになってしいますよね。地方は、自分らしく自然体でいられて、そっちの方が人として自然なんじゃないかと思います。

――リノベーションや地方移住に興味のある人にメッセージをお願いします。

漆原秀さん

リノベーションのコツは、今あるものの良いところ、チャームポイントを見つけて活かして伸ばしてあげること。自分のことも、誰かの真似をして○○風なんてやるより自分のチャームポイントを信じて活かしてほしいですね。そうすると、相手からも自然と共感を得られるし、こだわった生活ができると思います。また、今は移住検討ブームみたいなところがあって、「住みやすさランキング」なんてありますが、そんなスペック情報だけではなく、実際に自分がどう思うか、自分のハートに聞いてみてほしいですね。

(取材・文 フジイミツコ)

プロフィール
漆原秀(うるしばらしげる)
1970年生まれ。大阪で生まれ、埼玉で育つ。
現在は千葉県館山市で、賃貸住宅「ミナトバラックス」、ゲストハウス「tu.ne.Hostel」の経営をしつつ、官民連携の「リノベーションまちづくり」に取り組んでいる。
今後は元薬局をリノベーションしたシェアハウスも立ち上げ予定。
ゲストハウス「tu.ne.Hostel」:http://tune.co.jp/
賃貸住宅「ミナトバラックス」:https://minatobarracks.com/