転職ノウハウ

‟埼玉”超特化型のクリエイティブディレクターが語る地域おこし! 「偉いね」ではなく「楽しそう・いいなぁ」と言わせよう


19年話題になった映画「翔んで埼玉」でも使われた“埼玉ポーズ”。その“埼玉ポーズ”を生み出した動画「そうだ埼玉」の仕掛け人が、クリエイティブディレクターの鷺谷政明(サギタニ マサアキ)さん。鷺谷さんは、埼玉に特化した企業のプロモーションや動画制作を請け負っています。そんな彼に、地方に特化した事業の魅力や、これからの地方の未来について話を聞いてきました。

独立して賞を獲ったものの、はじめは営業が上手くいかず

――現在の仕事について教えてください。
大きく分けると仕事は3つで、1つ目は埼玉に特化したクリエイティブエージェンシー「天下茶夜」の運営。クライアントからの「コレのプロモーションを考えてくれ、アレのポスターや動画を作ってくれ」など幅広い依頼を受けています。広告・プロモーション案件ですね。2つ目は個人案件で、講演の依頼や、本を出したりしています。3つ目は「そうだ埼玉.com」という埼玉に特化したウェブサイトを運営しています。そのほかにも、映画レビューや自分の活動などを書いていくサイトもやっています。

――メディアに務めていたんですか?
いえ。前職は、渋谷の映像・音楽関係の会社で6年間働いていました。そこで音楽事業部の主任をしていたんですが、その会社が倒産してフリーランスになったんです。

――もともと独立したかった?
独立するつもりは全くなかったのですが、何か面白いことをやりたいなあとは思っていました。独立してからは、個人で印税契約をして企画音楽CDの制作やプロモーションをして仕事をしていました。ただ、2011年当時はどんどんCDが売れなくなっている時期で……。

当時33歳。いつか将来デカいことがしたいとか、おれは人と違うぜ、とか思っていましたが、全然普通で(笑)。33歳なんていったら、友人らはもう結婚して子供産んで家建てるか建てないかという時期。それなのに自分は何者にもなってない気がして。口だけは大きいこと言っているけど、何もしてきていないとハタと気づいたんです。

独立と同じタイミングで「天下茶夜」という屋号を名乗り始めて、可能な限り営業とかもやってみました。でも全然相手にされない。箔をつけようと思って第49回宣伝会議賞(2011年)にトライして、協賛企業賞という賞をたまたま獲れたんです。これで企業とか仕事取れるかなって思ったんですが、全然ダメで。賞を獲ったことで名前が売れるようなわけではなかったんです。

「そうだ埼玉」の動画作りに奔走! それがきっかけでブレイク!?

――そこからどうされたんですか?
2013年にAKBの「恋するフォーチューンクッキー」が流行っていて。その音楽に合わせて踊る動画を自治体で公開したのが佐賀県だったんです。で、その次にやった神奈川県のが、めちゃくちゃバズった。ボクもそのタイミングで、その動画の存在を知って。

埼玉県ってこういう動画やるのかな~って思ったんです。当時、県の議会でも話し合われたみたいで、「3番煎じになるからさすがにやりませんね」と知事がお話されたようで。おっしゃる通りで、このタイミングで埼玉が乗っかっても確かにどうかなと。

ただ、これをすべてオリジナルでやるのは面白いかもって思ったんです。曲からオリジナルで作って、オリジナルのダンスでやるのはいいかもって。もともとボクは10代の頃はミュージシャン志望でバンド(6才児)を組んだりもしていました。そこで作曲はボクがして、作詞はメンバー全員で書いた「そうだ埼玉」という曲を作ったんです。これに合わせて、埼玉県のいろんな企業が踊る動画を作って、それが結構話題になったんです。

――動画作成はスムーズにいきましたか?
10カ月くらいかかって完成したのですが、その期間は地獄でしたね。「挑戦って、こんなに辛いのか」と。まず、だれにも相手にされない。毎日埼玉県のいろんな会社に電話して「鷺谷って言うんですけど、『そうだ埼玉』と言って……」と話しても「何だそれ。やんねえよ」って電話切られて(笑)。累計200社には電話しました。

それでも地道に、参加していただける企業を少しずつ撮っていったんですが、途中で埼玉新聞が取り上げてくれて流れが変わりましたね。「見たよ!」って言われるようになって。そこからテレビ埼玉にも生放送で出るようになって、だんだんと信頼が出てきたみたいで。そこから参加企業が集まってくるようになりました。そんな感じで、自力で映像を撮りに、埼玉の隅から隅まで回ったんですよね。

埼玉に特化したウェブサイト「そうだ埼玉.com」をオープン!

――その経験が「そうだ埼玉.com」を作るきっかけになった?
そうなんです。今でこそ地域の情報サイトって山ほどありますけど、当時はそれほどなくて。動画を撮りながら埼玉を回るうちに、埼玉に特化したサイトって面白いかもと思って「そうだ埼玉.com」というのを同時進行で作ってて。「そうだ埼玉」の動画を公開したのと同時に、サイトもオープンしました。2014年の9月。

で、2015年の2月頃、動画「そうだ埼玉」に登場する「埼玉ポーズ」がヤフーニュースで取り上げられて、ヤフーのトップページに何回か載ったんです。同じ時期にテレビも何回か出て。さらに動画自体がバズった。そこからやっと「そうだ埼玉.com」でこういう広告を出してほしいとか、こういう動画を作ってほしいというオファーが来るようになりました。

埼玉は住むには理想の地! 住みたいという人が増えている!?

――東京に住もうとは考えなかった?
前職以前も合わせると、新宿・渋谷で10年働いていましたが、ずっと埼玉に住んでいました。東京で1人暮らしすると、東京のブランドを獲得する代わりに、狭くて家賃の高い生活をすることになっちゃう。ただ、埼玉というノーブランドを選ぶと、広くて家賃の安いところに住める。今の時代の流れは埼玉にあるような気がします。

ボクの上の世代はバブル世代で、完全にブランド志向型だった。で、その下の世代くらいから、ロストジェネレーション世代と言われて、就職氷河期を経験してきた世代。その下はゆとり世代やさとり世代が続きますが、今の若い世代は、ブランド志向がどんどんなくなってきてる。もちろん、東京に住みたいという人もまだ多いけど、「埼玉でもいいよね」という人が増えてきているのも事実です。

例えば5Gの時代がくれば、ネットのあらゆる仕組みがさらに高速化して、自宅にいながらVRでショッピングを楽しめるようになったりするかもしれません。そういうことが常態化していくと、住んでいる場所のブランド価値やアドバンテージが少なくとも今よりは下がっていくと思う。

埼玉は、(東京よりは)広くて家賃が安くて、でも東京は隣だし、海にも山にも行ける。ディズニーランドも1時間くらいで行けちゃうし、そう考えると地味に無敵でしょ。

――“何もない”と言われている埼玉では、「そうだ埼玉.com」のネタに困りませんか?
埼玉県の人が興味を持ちそうなものなら、県外のことをネタにしてもいいと思っています。例えば「埼玉県から近い海4選」という記事はずっと人気があるし、群馬県の温泉宿を紹介する記事も人気ですね。

怒られるくらいが丁度いい! 地域特化活動は、面白さ重視で!

――これから力を入れてやっていきたいことはありますか?
去年、埼玉県民向けの本を一冊出したので(「なぜ埼玉県民だけがディスられても平気なのか?」徳間書店)、次は、これまでの経験を活かして、地域に特化して活動することについての本を出したいと思っています。その本の中で言いたいのは、まず、“郷土愛”を捨てた方がいいということ。郷土愛を一番に持ってきちゃうと、「地域のために何かをしよう」「埼玉を盛り上げよう」とか漠然とした目標を掲げがちなんです。どうなれば盛り上がっていることになるのかなんて人によって定義が違う。

例えばボクにとっての郷土愛の定義は“住んでいること”。または“住んでいた”。そこに住んでいれば、その土地に愛着が生まれるのは当前で、いちいち掲げる必要なんかない。そもそも愛なんてみんな形違うんだから。

あと、地域活動で褒められているうちはあんまり周知されていない証拠。人が嫌がることを率先してやっている人って褒められるでしょ。だから、周りから「大変そうだなあ」「偉いなあ」じゃなく「いいなあ」「楽しそうだなあ」と思われるようなことをすべき。それがさらに進むと怒られる。そうだ埼玉や埼玉ポーズも「そう、ださいたま、とは何事か!」「ふざけたもの流行らすな!」とか散々怒られました(笑)。でもそれくらい注目されるようなものになっていたからこそ、映画「翔んで埼玉」にも使われるようになったんだと思います。

仕事は、最高の自己アピールの時間。毎回全力を出し切る!

――仕事をするうえでのこだわりはありますか?
仕事って自分を知ってもらう“最大のチャンス”だと思っています。仕事をくれたってことは、その人とやり取りをたくさんしながら完成へと向かっていきますよね。それって“最高の自己アピールタイム”でしょ。そこで毎回全力を出して取り組むことが大切だし、それ自体が営業になる。ボクは人見知りで営業が苦手なので、今来ているお仕事に全力を注ぐことで自分を知ってもらって、次の仕事につなげていきたい。これはフリーランスだけじゃなくて企業に勤めている人もそうだと思います。上司に何か任された時に、そこでどれくらいできるか。

あと、自分のやりたいことや、できることは、全部ネットに上げておいた方がいい。ボクもブログやSNSに全部上げてます。講演の動画を上げたりしていたら、「鷺谷さん、結構話せるんだったら今度こういうイベントやるから来てください」となっていく。こういうことができるんだったら、こういう仕事をお願いしようかなって、どんどんつながっていくから。

(取材・文 すずきおさむ)

プロフィール
鷺谷政明(サギタニ マサアキ)
1979年埼玉県生まれ。
クリエイティブディレクター。
埼玉ポーズの仕掛け人で、「そうだ埼玉.com」を運営している。
著書「なぜ埼玉県民だけがディスられても平気なのか?」徳間書店
WEBサイト : http://soudasaitama.com/
そうだ埼玉動画 : https://www.youtube.com/watch?v=RU-OQ2AcHX4
そうだ埼玉TV : https://www.youtube.com/channel/UC_eSxcJIgIh69dUCklZQlXw
Twitter : https://twitter.com/sagitani_m