転職ノウハウ

私は、転職を選んだ~ビジネスホテルフロントから、高級旅館の「仲居頭」に。転職で変わった自分の経験を、後輩の成長へ生かす~

阿部紫音さん

自分に最適な職場と出会うために取り組む転職活動。職種や収入、勤務地などが納得できるかはもちろん、自分の「やってみたい!」「成長したい!」という気持ちを叶えられるかも大切な要素です。
転職でステップアップし、責任ある立場で輝いている方々に、転職を選んだ理由、そして、転職先で成長を遂げるまでのストーリーを聞いてきました。

今回紹介するのは、旅館客室係の主任を務める阿部紫音さん(32歳)。ビジネスホテルのフロント職から旅館に転職し、男性初の「仲居頭」として活躍するまでのストーリーを語っていただきました。転職が彼に与えたのは、自己の成長だけではなかったようです。

高級旅館の仲居さんをまとめる、若きリーダー

阿部紫音さん

――いま、どんな立場でお仕事をしているんですか。
客室係(仲居)の主任を務めています。お客様のお部屋へのご案内や、夕食朝食の給仕など、通常の接客業務の傍ら、20数名いる客室係のリーダーとしてマネジメントを行っています。

――男性の仲居さんは珍しいですよね。
そうですね。当館では私を含めて数名の男性客室係が働いていますが、やはり全体としては「女社会」です。だからこそ、男性の私がそれに適合してフラットな立場でスタッフに接することは重要です。小学校から大学まで、演劇や吹奏楽のクラブ活動に所属し、女性が多い環境には慣れていましたし、そこでリーダーを務めた経験もあるので、自分には合っているのかなと思っています。

前職で見出した接客の楽しさを、次のステップへ

阿部紫音さん

――前職について教えてください。
大手ビジネスホテルチェーンのフロント職です。大学を卒業して初めて正社員として働いた職場でした。就職活動をしているとき、自分にはルーティンワークより変化のある仕事が向いていると思っていました。人と関わる接客業はぴったりだと考えて入社し、神奈川県内の店舗で働き始めました。

――どんな業務を担当していたんですか。
おもにチェックインとチェックアウトを担当していました。接客は未経験でしたが、自分の行ったサービスがお客様の反応という結果となって現れることにおもしろさを感じていました。自分がやってあげたいこと、喜んでもらえると思ったことはすぐに行動に移していましたね。

――やりがいを感じつつも、転職を考えるようになったのはなぜですか。
1年ほど働いて、常連さんに名前を覚えてもらったり、初めておいでになる方ともすぐに打ち解けるようになったりして、自分の接客でお客様を喜ばせている実感を持てるようになってきました。そこで、もっと高いレベルを志向しはじめました。

――転職を決意した一番の理由は何でしたか。
新店舗のオープニングスタッフだったこともあり、基本的な接客マナーや技術といった点は全部自己流だったんです。
なにも知識がない状態で接客してこれだけお客様が喜んでくださるなら、きちんとした接客を学べばもっともっと喜ばせることができるはず。そう考えて、プロのサービスマンをきちんと育てている会社で働くほうがいいと思うようになりました。ホテルよりもお客様に接する時間が長い旅館ならきちんと接客を勉強できると思い、旅館に絞って転職活動を開始。自分がやりたいと思ったことに挑戦したい、という思いも強かったです。

――いまの職場を選んだ決め手は。
自然が多い環境が好きだったので、大学時代を過ごした山梨が最初に思い浮かびました。そういうところに行けば、自分のやりたいことに集中できると考えたんです。転職サイトで見つけたのが、今の職場です。実は宿のことは全く知らなかったんですが、高級旅館でサービスレベルも高く、給与面も納得できるものだったので、すぐに応募。2011年11月に入社となりました。

転職で手にしたやりがいと、感じたギャップ

阿部紫音さん

――実際に就職した職場はいかがでしたか。
フロント職での採用でしたが、研修を兼ねて客室係(仲居)としての勤務がスタートしました。初めて仲居さんの仕事を経験して感じたのは、ゼロから喜びをつくる大変さです。客室や個室食事処は自分とお客様だけの空間です。決して逃げることのできない状況下で、お客様が何を望んでいて、どうしたら喜んで頂けるかをゼロから想像し、表現しなければなりません。とても大変なことですが、なんて貴い仕事なんだろうと思いました。

――転職前に期待していたこととのギャップもあったんだとか。
客室係は職人気質で、マニュアルもありませんし、「見て盗む」世界でした。私自身、接客を学びたいと思って転職したのに、きちんと教えてもらえない環境だったんです。これではなかなか若い人が育っていかないと感じました。そして、その環境に甘んじていれば私の成長もないと思いました。

――どんな行動を起こしたんですか。
3年後を着地点にして目標を設定しました。それまでなかった客室係主任職を新設してもらい、自分が就任するというものです。それが叶うまでは、とにかく社内で信頼を得るのが先です。誰よりも仕事を早く完璧にこなせるように、先輩の技術を盗みました。他の部署の社員とも積極的に交流しました。接客やサービスに関する本を何十冊も読み漁り、自らマニュアルを作成したりしました。今考えると、かなり不十分なものでしたが(笑)。

――目安としていた「3年後」には、状況はどう変わりましたか。
フロントへの異動を経て、自ら志願して再度客室係に戻っていました。そのころから主任になるという目標のためにどんどん動いていきました。後輩も多くなっていましたし、協力してもらえる先輩に働きかけながら少しずつ改革を進めていきました。

主任となったいま、後輩に伝えたいこと

阿部紫音さん

――そして、“初代”の客室係主任になられたんですね。
入社5年目に入るタイミングでした。役職をつけてもらったことで、さまざまなことが前へ進んでいきました。教育・研修はもちろん、食事の準備や提供の方法を見直したり、不要な業務をなくしたり、仕組みをつくりなおしたんですね。時間や手間がかかっている業務は、たいてい個人の能力よりも仕組みに問題があるケースが多いです。そこにじっくり取り組むことができました。

――主任となってまもなく3年です。
まだまだ取り組めていない部分が多いです。それは、仲居さんそれぞれに働くことの楽しさを実感してもらうことです。若いスタッフが多いですから、仲居の仕事で得られるやりがいや喜びに気づいてほしいんです。そうすれば、「やらされている」状況から抜け出して、問題点を見つけたり、仕事を能動的にできるようになる。ただ、それが押し付けになってしまってはいけません。成功体験を重ねて、自ら仕事の楽しさに気づけるきっかけをつくってあげたいですね。

――それは、ご自身が転職で気づけた部分でもあるんじゃないですか。
そうですね。昔は、満たされないことを環境のせいにしていた部分も多かったです。でも転職でこの職場に来て、まず自分を変えることで環境は変えられると思えるようになりました。それを後輩たちにきちんと伝えられたらと思っています。そして何より、私たち客室係にとっては、目の前のお客様に全力投球して、喜んでいただくことが大切です。その本質をぶれずに追求し、自分もさらに成長していきたいと思います。

まとめ

より高いレベルの接客技術を習得したいと転職に挑んだ阿部さん。しかし転職先では「見て盗む」職人気質の職場環境を目の当たりにしました。そんな環境を変えたいと強く願い、主任職をめざしてひたすらに自分を磨く日々が始まりました。ついに目標を叶え、現在もさまざまな改革を実行しつづけています。転職で彼自身が気づいたのは、「自分を変えれば環境は変わる」こと。自分を大きく成長させてくれたこの体験を、今度は後輩たちの成長と宿のさらなるサービスレベルアップに生かそうとしています。

■Profile
阿部紫音(あべ・しおん)
1985年 徳島県羽ノ浦町(現・阿南市)生まれ。山梨県内の公立大学を卒業後、大手ビジネスホテルチェーンでの勤務を経て、2011年、株式会社湖山亭うぶや(山梨県富士河口湖町)に就職。2015年、客室係主任に就任し、現在に至る。