転職ノウハウ

高卒の元プロ野球選手から公認会計士となった奥村武博さんに聞く「転職に必要なもの」とは?

スポーツ選手は引退した後の人生の方が長い――当たり前かもしれませんが、引退後の人生、セカンドキャリアで苦労するスポーツ選手が多いそうです。1998年にドラフト6位、高卒ルーキーとして阪神タイガースに入団した奥村武博さんもその一人。2001年に戦力外通告を受け、現役引退後9年もの年月をかけ、史上初となる元プロ野球選手の公認会計士となりました。本稿ではそんな奥村さんにインタビューを敢行。公認会計士の試験を通して得たもの、現在のお仕事について、紆余曲折の人生を歩んだ奥村さんだからこその転職のアドバイスを伺いました。

9年間の受験期間で手に入れたもの

――引退後、公認会計士を目指すきっかけは何だったのでしょう。
引退後、すぐ公認会計士を目指したわけではなく、初めは飲食店で働いていました。そこで、それまで野球しかやってこなかった自分が、いかに世間知らずで何もできないか痛感したんです。ふと「このままでいいのかな…」って将来を考えたとき、たまたま手に取ったのが資格のガイドブックでした。それを読みながら、「世の中には色々な仕事があるんだ」と思って読んでいると、気付けば公認会計士のページに。その瞬間文字が浮かび上がって来てビビビってきたんです。今思えば商業高校を卒業していたので、簿記の知識が生かせること、ちょうど試験制度が変わって高卒でも受験できるようになったこともあり「これだ!」となりました。まさに運命的な出会いでしたね。

――それまで、スポーツを生業としていて受験勉強を始めるのはツラかったのでは?
ツラかったですね(笑)。長時間座ってじっとすることを身体が許してくれなかったです。なんだかんだ理由をつけて飲みに行ったり、ゲームしたり、すぐ別のことをしていました。そう考えると机に向かうクセをつけるのが一番苦労したかもしれません。遠征のときにハードカバーの本でも読んで活字を読むクセを付けておくんだったと痛感しましたね。

――9年の受験期間で何か得るものはありましたか?
これまで自分が経験してきたことは、一見全く違うジャンルであってもつながっていると実感できたことです。受験勉強と野球は全然違うものと思うかもしれませんが、トライ&エラーを繰り返し、工夫していくことで結果が出せるようになるプロセスは通じるものがあります。それに気づけた瞬間、資格試験の勉強が効率的にできるようになりました。

――野球と勉強以外にも、今までの経験が活きていると感じた瞬間はありますか?
受験期間中、一般企業に勤めていたのですが、そのときにパンフレットに誤字脱字がないかチェックする校正作業をしていました。当時は慣れない仕事でしんどかったですが、会計士になった今も似たような作業があって、決算書の字の間違いや数字の桁数が間違っていないかチェックするのに、その経験が役立っています。自分が今やっていることは全く違う業界に移っても、経験が役立つことがあるので、初めから自分の可能性を閉ざさないことが大切ですよね。これは転職でも同じだと思います。

経験と知識を活かし、スポーツ選手を支える

――現在、具体的にどのような仕事をされているんですか?
自分の経験を活かして“セカンドキャリア”を伝える仕事。それに公認会計士としての知識を活かしてスポーツ選手の資産形成のサポートをする仕事を二足の草鞋でやっています。

――セカンドキャリアを伝えるお仕事とはどのようなことをされているのでしょう。
講演をさせていただくことが多いですね。日本スポーツ学会主催のシンポジウムやスポーツが強い学校、プロ選手に向けてスポーツの実力だけでなく、それ以外の能力も伸ばそうね、という話をしています。今後はプロとして活躍している、あるいは引退している人、やがてプロになる学生たち、さらにプレーする本人以外に子どもたちを指導する親・指導者たちも意識が変わらないといけません。

――本人たちの意識だけでなく、周りの人の意識改革も必要なんですね。会計士としてはどのようなお仕事をされているのでしょうか。
現役のプロ野球選手やサッカー選手、プロゴルファー、オリンピックのメダリストなど幅広い種目の選手たちに、将来のためにどうやってお金を残しておくとか、節税、引退後に会社を興したいという場合には設営から運営のアドバイスやサポートをしています。

――セカンドキャリアに向けて、しっかり蓄えがあった方がいいということですね。
そうですね。スポーツ選手は稼げる期間が短いですから。例えば、十分な蓄えがなく引退すると、切羽詰まった状態で、生きていくために転職先を決めてしまう。すると「とりあえず、稼がなくてはいけない」となってしまい、視野が狭くなって、自分の「やりたいこと」と仕事のミスマッチが起きやすくなります。逆に蓄えがあれば、余裕を持ってセカンドキャリアへの準備ができますよね。これは、スポーツ選手に限らず、転職を考えている方にも言えることかもしれません。

奥村さんから転職を考えるみなさんへ

――スポーツ選手のセカンドキャリアをご自身で体験された奥村さんにとって、転職とはどういうものでしょうか?
転職や就職活動はプロ野球のドラフト会議と似ていると思います。野球の場合は甲子園や大学リーグ、都市対抗といった大会やリーグ戦で、自分の能力をアピール。そして、スカウト・球団が欲しいと判断したら、順番に指名する。就活も面接やインターンも同じです。会社に自分の能力をアピールし、会社が「一緒に働きたい」と思えば、欲しいと思う人材から順に内定を出します。つまり、スポーツでも就職でも、いかに自分が組織に必要な人材だと思ってもらえるかが重要です。

――なるほど! 確かに就職・転職活動とドラフトは似ているかもしれません。それでは、会社に「一緒に働きたい」と思ってもらうためには一体何が必要なのでしょう。
知識やスキルを身に付けることも重要ですが、AIが様々な分野で活躍する時代になってきたからこそ、「人間性」も大事ですね。例えば、引退後に球団職員として、声をかけられる方は練習の取り組み方やファンとの接し方などスキルに関係ない人間性が評価されているんじゃないかと。もちろん、声をかけられないからダメだというわけではなく、大事な要因の一つではないでしょうか。後は、挨拶・お礼がきちんとできる、ちょっとした気遣い、さりげない優しさがある人は、人間性に満ち溢れた魅力的な人だと思います。きっと、そんな人はどんな世界でも「一緒に働きたい」って思ってもらえるはずです。

奥村武博さん

■プロフィール
奥村武博(おくむらたけひろ)
2001年にプロ野球選手を引退。その後は飲食業などを経て、日本初の元プロ野球選手の公認会計士にとなる。現在は、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構代表理事、税理士法人オフィス921・株式会社オフィス921スーパーバイザー、優成監査法人非常勤職員として活躍。

(取材・執筆:冴島友貴)