転職ノウハウ

よしもと、伝説の女マネージャー・大谷由里子さんが仕事を通して得たもの

大谷由里子さん

タレントを影から支える存在であるマネージャー。その存在は知っているけれども、どんな仕事をしているのかきちんと知っているという人は少ないのではないでしょうか。
そこで、今回は新卒で吉本興業に入社し、横山やすしさんのマネージャーを皮切りに、宮川大輔・花子さんなどを売り出し、後年は、ナインティーナインや雨上がり決死隊を世に出すことになった「よしもと印天然素材プロジェクト」を影で支える黒子として活躍。現在は、「笑い」を用いたユニークな「人材育成法」が企業の研修で引っ張りだこの大谷由里子さんに、マネージャーという仕事についてお話を伺いました。

吉本興業のマネージャー業は「芸人を売り出す」プロデューサー

――吉本興業に入ってマネージャーという仕事をするきっかけは何だったのでしょう?
大学を卒業した当時、男女雇用機会均等法が制定される前で就職先がなかなか見つかりませんでした。その時の女子の就職はだいたい縁故。でも、どうしても自分で仕事先を見つけたかったんです。そのとき、たまたまマスコミ名鑑で吉本興業を見つけて、入社試験に応募したら人事部に気に入られてそのまま入社できました。その当時、吉本の女子社員は私を含めて3人目でした。

――吉本興業に入ったのはたまたまだったんですね。マネージャーのお仕事は具体的にどんなことをするのでしょうか。
どうやったら担当のタレントが売れるのか、考えて実行する仕事です。吉本に入社すると、最初は売れているタレントにつきます。私の場合は横山やすしさんでした。そこで人脈を作って、周りに顏を覚えてもらって、ゆくゆくは自分が新しいタレントを売り出して行くという仕組みです。横山さんは、超売れっ子ですが、ぎちぎちに予定が詰まっている人ではなかったので、先輩マネージャーにも付いて行って、のりお師匠の現場や面白そうな現場にどんどん顏を出して人脈を作りました。

――マネージャーはタレントをプロデュースするコンサルタントのような仕事なんですね。
そうですね。タレントには色々なタイプがいます。それぞれのタレントに合わせて売り出していきます。とにかく売れてトップに行きたいから、どんな仕事もガンガン行くという人もいれば、芸人だからドラマや映画の仕事はしたくない、あるいは、芸人は入口でドラマにどんどん出て行きたいという人もいる。あと、別に自分がメジャーにならないで脇役を貫きたいっていう人もいます。それぞれに合わせた戦略・戦術を取ることがポイントです。

――タレントを売り出すためには戦略と戦術が必要なんですね。
吉本でよく言われたのが、「戦略」と「戦術」を立てられる人間になれ、ということでした。頭の中でこんなことがいいんじゃないか、あんなことがいいんじゃないかって考える「戦略」、戦略を実現させるために身体を動かすのが「戦術」ですね。これは飲食店でも流通でも基本は同じ。マネジメント能力はどの業界でも重宝されますし、今の仕事にも活きています。

――なるほど。マネージャーはコンサルタントのような仕事なんですね。もっとタレントさんのそばにいて、身の回りのお世話をしているのかと思っていました。
それはプロダクションによって違いますね。ある会社だと、所属タレントを売り出すのはデスクが権限を持っていて、現場にはタレントの世話をするマネージャーを置いているところもあります。

――そうなんですね! じゃあタレントを売り出すマネージャーになりたいなら事前に会社を調べて入社する必要があるということですか?
そんなことはないですよ。現場でタレントの荷物持ちをしている人でも、少しずつ人脈を作っていって、自分がタレントを売り出す人もいます。付き人で終わる人もいれば、自らの行動一つでステップアップする人もいるということです。要するに、芸能界に限って言えば、「自分がその会社で何をしたいのか」「本人の力量」そして、「気合」でやりたいことを叶えていくこともできます。

マネージャー業で得たものは“人脈”

――マネージャーの仕事を通して得たものは何でしょう?
やっぱり、20代に作ることができた人脈は大きいですね。今でもお付き合いがある方もいますし、吉本とは一緒に仕事をさせてもらったこともあります。もちろん、吉本にいたときも人脈に助けてもらいました。宮川大輔・花子を売り出したいというとき、先輩に付いて回っているうちに知り合った人たちが協力してくれました。でも、これはマネージャーだから特別、ということでなく、どこの業界でも同じだと思います。

――人脈って大切なんですね。しかし、中には人脈作りが苦手という方もいると思います。初めて会う方と仲良くなる、あるいは距離を縮めるためにはどんなことをすればいいでしょうか。
当社のインターンシップ中の学生によく話すのは、「新入社員に期待していることなんか一つもない」ということです。だから、「教えてください」という素直な姿勢が大切です。新卒の当時、私は現場でめっちゃ怒られたり、泣かされたりしたこともありました。それでも「教えてください」という姿勢や態度を続けました。大人の人達は、こちらの本気度合いを見ています。姿勢がブレなければ、ちゃんと教えてくれます。

――それではわからないことは、どんどん教えてもらう方がいいんですね。
吉本の頃は、特に師匠メンバーに芸能界はこういう場所だ、っていうことを1から10まで教えてもらいました。今考えると何度も同じことを質問してウザいと思われることもあったかもしれません。(笑)それでも、色々と教えてくれました。ご飯食べさせてもらったり、フグをご馳走になったり(笑)。就職でも転職でも、可愛がられる人間になると必ずうまくいきますよ。

ベクトルは「他人」ではなく「自分」に向けるべし

――他にどんなことをすれば、可愛がられる人間になれますかね?
素直であることがすごく大事だと思います。わからないことがあったら、すぐに教えてもらう。教えてもらったらそれを一度は実践してみる。せっかく教えたのに「いや、自分のやり方はこうなので」という人は反感を買ってしまいますから。反論・否定ではなく、実際にやってみてから改善点を提案するのならOKです。

――相手の気持ちに立って考えることができる人が、素直で可愛がられる人間になれそうですね。
やっぱりベクトルが大事ですよね。他人にベクトルが向いている人は人のせいにする。自分にベクトルが向いていれば自分の知らない世界だった、こういうやり方があったんだって次に生かすことができます。そうすれば、自然と学ぶ姿勢も生まれてきますよね。その気持ちがあれば、どんなものでも学ぶことができますし、自分が望んだ場所じゃなくても、何か学び、身につき、成長することができると思います。

タレントを総合的にマネジメントするマネージャーという仕事。その根底には、他の分野であっても必要なスキルが欠かせないようです。あなたは、自分にベクトルが向いているでしょうか。この機会に一度、自分自身を見つめ直してみてもいいかもしれません。

大谷由里子さん

■プロフィール
大谷由里子さん(おおたに ゆりこ)
1963年奈良県生まれ。京都ノートルダム女子大学卒業後、吉本興業へ入社。横山やすし氏のマネージャーを皮切りに、宮川大輔・花子、若井小づえ・みどりなどを売り出す。23歳の時には、花王名人劇場のプロデューサーを任されるなど、「伝説の女マネージャー」として知られる。現在は、「笑い」を用いたユニークな「人材育成法」が、NHKスペシャルや日本経済新聞などに取り上げられ話題となっている。主な著書に『吉本興業女マネージャー奮闘記「そんなアホな!」』(立東舎)、『はじめて講師を頼まれたら読む本』(KADOKAWA)など多数。

(取材・執筆:冴島友貴)